「キッチュ」第二号掲載作品紹介:その寒い街に住むその一人
2010.09.20 Mon
私の人生にまだ振り返れるほどのボリュームはありませんが、
大学時代にある編集者が云った一言が、ずっと記憶に残っております。
「編集者が漫画家を育てるって言うのは、とんでもない勘違いなんだ。
すべては漫画家の成就はみんな自分自身の力なんだよ!」と、あります。
私は当時非常に驚きました。
なぜならあの編集者現役時代は
竹宮恵子先生、萩尾望都先生、吉田秋生先生、ささやななえ先生など、
少女マンガの重鎮と共に数多くの傑作をこの世に出して、
少女マンガの歴史を大きく変えた伝説の編集長なのですから。
そしてその言葉の意味どはなんなんのか、
今回の奈樫マユミさんの作品で、ほんの少し理解できたような気がします。

この奈樫マユミさんの作品『黒い雪の降る街』ですが、
実は彼女の大学時代の卒業制作でした。
寒い街に住む一人の女性が、好感を持ち始める男性の、
左手にはめてある結婚指輪に気が付いたところから、
物語が始まります。

人間の感情を繊細かつ大胆に描写する奈樫さんですが、
四年間の集大成という意気込みだったでしょう、
この作品でさらにその威力を見せてくれました。
「雪が黒く見える」という彼女ですが、
それは主人公である彼女が感情変化を表す一つの「感性」であり、
それは「怒り」の一言では形容することが出来ない、
それは繁雑であり、時に憤怒であって、悲しみであって自嘲的でもあります。
それはまさに「黒い雪」でしか、表すことが出来ない。
その理解されない幻想は、まさしく彼女の優しさだと、
私は考えたのであります。

全ての人間が、少なからず持っているこの複雑な感情を、
作者が女性としての鋭い目線でとらえ、形にしたのである。
その複雑な心情が、その小さな心のなかで、
時にはわめき声をあげつつゆっくり動いていきます。
その全ては、雪が降る時の街の静かさと同調し、
読んでいる私でさえ呑み込んでいきます。

がしかし、この作品に関して私には一つだけ、気になるところがありました。
その結末である。
最後は彼女は感情の爆発と共に、
物語は唐突に終焉を迎えたかのように見えたのだ。
楽天的すぎるかもしれませんが…
陣腐なハッピーエンドはもちろん望まないが、
この一連の出来事は彼女の人生の一部でありながら、
彼女の「これから」を支える存在にもなってほしいと願ったのです。
そこで、悩みに悩んで、掲載の依頼と共に、
作者である奈樫さんにラストに一ページを追加できませんかと、
頼んでしまったのだった。

作者にとって、この乱暴な申し立てには
戸惑わずにはいられないはずなのですが、
奈樫さんは、快く引き受けてくれました。
私の個人的な視点を押し付けないように、
打ち合わせのなかある程度の保留をしたリクエストを彼女に伝えて、
お願いすることにしました。
私の個人的な願望で、作品の印象そのものを
ひっくり返す結果になり兼ねないことを頼んでしまったが…
どんな「ラスト」が来るのだろうか?
しばらくして、手に届いた原稿に、私は驚いた。
私が想像したどれとも違った、
奈樫さんの独特な解釈でした。
それに繋がるために「元」のラストページに一部のセリフを追加し、
黒い雪から始まって、黒い雪で幕を閉じるのであった。
正解など存在しえないのだが、
私がやったことに対して、
後悔こそしないものの、微かに悔いが残った。
一瞬このラストページ追加の依頼は
思いあがりだったじゃないかとまで、自分を笑った。
その後「キッチュ」制作にあたって、編集の立場の私のあたまの中で、
あの編集者の言葉が何度も響き渡ったのでありました。(呉)

>総合マンガ誌キッチュ第二号作品紹介ページに戻る<
大学時代にある編集者が云った一言が、ずっと記憶に残っております。
「編集者が漫画家を育てるって言うのは、とんでもない勘違いなんだ。
すべては漫画家の成就はみんな自分自身の力なんだよ!」と、あります。
私は当時非常に驚きました。
なぜならあの編集者現役時代は
竹宮恵子先生、萩尾望都先生、吉田秋生先生、ささやななえ先生など、
少女マンガの重鎮と共に数多くの傑作をこの世に出して、
少女マンガの歴史を大きく変えた伝説の編集長なのですから。
そしてその言葉の意味どはなんなんのか、
今回の奈樫マユミさんの作品で、ほんの少し理解できたような気がします。

この奈樫マユミさんの作品『黒い雪の降る街』ですが、
実は彼女の大学時代の卒業制作でした。
寒い街に住む一人の女性が、好感を持ち始める男性の、
左手にはめてある結婚指輪に気が付いたところから、
物語が始まります。

人間の感情を繊細かつ大胆に描写する奈樫さんですが、
四年間の集大成という意気込みだったでしょう、
この作品でさらにその威力を見せてくれました。
「雪が黒く見える」という彼女ですが、
それは主人公である彼女が感情変化を表す一つの「感性」であり、
それは「怒り」の一言では形容することが出来ない、
それは繁雑であり、時に憤怒であって、悲しみであって自嘲的でもあります。
それはまさに「黒い雪」でしか、表すことが出来ない。
その理解されない幻想は、まさしく彼女の優しさだと、
私は考えたのであります。

全ての人間が、少なからず持っているこの複雑な感情を、
作者が女性としての鋭い目線でとらえ、形にしたのである。
その複雑な心情が、その小さな心のなかで、
時にはわめき声をあげつつゆっくり動いていきます。
その全ては、雪が降る時の街の静かさと同調し、
読んでいる私でさえ呑み込んでいきます。

がしかし、この作品に関して私には一つだけ、気になるところがありました。
その結末である。
最後は彼女は感情の爆発と共に、
物語は唐突に終焉を迎えたかのように見えたのだ。
楽天的すぎるかもしれませんが…
陣腐なハッピーエンドはもちろん望まないが、
この一連の出来事は彼女の人生の一部でありながら、
彼女の「これから」を支える存在にもなってほしいと願ったのです。
そこで、悩みに悩んで、掲載の依頼と共に、
作者である奈樫さんにラストに一ページを追加できませんかと、
頼んでしまったのだった。

作者にとって、この乱暴な申し立てには
戸惑わずにはいられないはずなのですが、
奈樫さんは、快く引き受けてくれました。
私の個人的な視点を押し付けないように、
打ち合わせのなかある程度の保留をしたリクエストを彼女に伝えて、
お願いすることにしました。
私の個人的な願望で、作品の印象そのものを
ひっくり返す結果になり兼ねないことを頼んでしまったが…
どんな「ラスト」が来るのだろうか?
しばらくして、手に届いた原稿に、私は驚いた。
私が想像したどれとも違った、
奈樫さんの独特な解釈でした。
それに繋がるために「元」のラストページに一部のセリフを追加し、
黒い雪から始まって、黒い雪で幕を閉じるのであった。
正解など存在しえないのだが、
私がやったことに対して、
後悔こそしないものの、微かに悔いが残った。
一瞬このラストページ追加の依頼は
思いあがりだったじゃないかとまで、自分を笑った。
その後「キッチュ」制作にあたって、編集の立場の私のあたまの中で、
あの編集者の言葉が何度も響き渡ったのでありました。(呉)

>総合マンガ誌キッチュ第二号作品紹介ページに戻る<
スポンサーサイト
http://kitsch2010.blog106.fc2.com/tb.php/24-e7284c03