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「キッチュ」第三号掲載作品紹介:リズムの海

2011.06.25 Sat
 博士課程に入ったころ、指導教授から一冊の本を渡された。アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールの著作『文化としての時間』でした。この意義深遠な一冊を一通り読んだ後に、しかし手元に置いておきたい…そこはもう一冊を手に入れてから、お返ししようと決めた。

 しかし購入先との不愉快な記憶のせいで、手元に届いた二冊目の『文化としての時間』を開封しないまま持っていた。そして今年に博士進学に決まった友人に、「これはぼくちゅんが博士に入った時、指導教授からもらった本…オモシロイからぜひ読んでみてください」と伝え、あの未開封の一冊を手渡した。

 この時、指導教授から本を借りたのは約五年前だったことを思い出します…

 ともあれ、本の内容は、この五年もかかったエピソードより遥かに深みのあるものを保証したい。タイトルから想像できるように、文化によって時間への概念と感覚の違いを膨大な知識と様々な視点を持って分析して見せてくれます。しかしながら難解な文面ではなく、尚且つ読者に思考空間を持たせてくれる一冊でもあります…時々読み返すと、その中身はこうして、作品解説の引き出しになってくれます―――――

 キッチュ第三号で初登場HIRONARI SAGAWAさんの作品、全15ページの短編『RED・UT』。

ナル!

 成喜はサッカー少年として明るい一面を持ちながら、悪質な苛めに遭い、異質な「変化」遂げるを描いたこの作品が、『文化としての時間』で言及された「リズム」を思い出させてくれます。

サッカー少年

 団体単位の中に個人同士が自覚することなく、団体から一つのリズムを成形することを認めると言った内容でしたが、作品ごとに、もちろんリズムが存在すると考えています。登場人物のほか、作品の内容そして展開の流れ全てがリズムを成形する要素になることが、人間の団体のそれに似ています。そしてこの作品のリズムは、大変独特なものだと感じています。

悪夢

 時に少年少女とかに分類されるマンガですが、作品ごとにはさまざまなリズムがあると感じています。また時にパターン化される作品群を発見しますが、時に見慣れないものと出会うことがあります。この短編では、とにかく一度読むと、脳内を刻まれるほど強烈なものが残ります。独特という一言で形容するが、それは難解と意味不明に当てはまらない、ただ「独特なリズム」であることを、言いたい。

 慾は災いの元というべきか、このリズムを、一つ強力な「トーン(tone)」を加えることで、作品がより堅牢な自己主張を得るのではないかと考え始め、ついに作者に「見開きを加えてみませんか?」と口説いてしまうのであります。

 彼は快く引き受けてくださった。そして意外にも、それは作品の最後の2ページになりました。

 …この世に一つしかない、独特な作品に対して、私のこのような理不尽な要求の是非をどう判断するのか…それが分かるのにかかる時間は、五年ところではなさそうだ。(呉)

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